武士の街・東京で進化を遂げた鰻の文化と味を楽しむ

2026年2月 2日

炭で丁寧に焼かれた鰻を口に運ぶと、外は香ばしく、中はふっくら柔らかい食感が口いっぱいに広がります。甘辛いタレと鰻の脂が調和した深い味わい。鰻を食べることは、職人の技術と長い歴史を感じることができる、日本独自の料理体験です。

この記事では、鰻という食材が東京で独自の進化を遂げたストーリーと、鰻が東京で愛されてきた理由、職人が受け継ぐ技術、東京で鰻の本格的な食体験をする魅力、そして天然鰻の保全などの持続可能性への取り組みまで、東京の鰻文化の奥深さをお伝えします。

栄養豊富で職人の技が光る伝統の味

職人は長年の経験により培われた火加減で、鰻を最もおいしい状態に仕上げます。

鰻は古くから私たちにエネルギーを与える食材として愛されてきました。その代表的な例が「土用の丑の日」に鰻を食べる習慣です。「土用」とは季節の変わり目、「丑の日」は十二支で数えられる12日に一度回ってくる日のことです。「土用」には、旬のものを食べて精をつける風習があり、なかでも夏の土用の丑の日に鰻を食べる文化は、発祥に諸説あるものの、今も日本各地で受け継がれています。このことからも、日本で鰻がスタミナ食材として広く認知されてきたことがよく分かります。

伝統的な鰻料理の中心はやはり「蒲焼き」です。鰻は地域を限らず獲ることができる貴重なたんぱく源で、タレを塗って焼いた蒲焼きや、それをご飯にのせて提供した鰻飯は、江戸時代には、屋台で提供される庶民の“手軽な”食事でした。

しかし、現在の蒲焼きは、より洗練された調理法へと進化しています。職人は鰻を慎重に開き、串を打ち、備長炭で焼き上げます。備長炭を用いるのは、火力が強いにもかかわらず煙は少なく、外側はカリッと、中はふっくらとした食感に仕上がるからです。職人はうちわで火力を調節しながら丁寧に焼いていきます。

タレは、醤油、砂糖、みりんといった基本的な調味料で作るものの、配合比は店によって異なります。多くの老舗では、先代から「秘伝のタレ」を大切に受け継いでいます。このタレが、うなぎの脂と絶妙に調和し、深い味わいを生み出すのです。

鰻屋には、いくつかの定番メニューがあります。

うな重

鰻といえば、うな重が定番です。漆塗りの重箱に入っているのは、タレをかけたご飯とうなぎの蒲焼き。タレがご飯に染み込み、鰻と一体となった味わいを楽しめます。ご飯の上にのせて食べる形は、東京が発祥だと言われています。

蒲焼き

蒲焼きは、鰻を開いて骨を取り、タレを何度も塗り重ねながらじっくりと焼き上げます。
現代に引き継がれるこの「タレをつけて焼く」蒲焼きのスタイルは江戸時代に確立したとされます。また、江戸前の蒲焼きは焼く前に蒸す工程を挟む手法によって、ふっくらとした食感を楽しめることが特徴です。お店では蒲焼きのみの注文も可能です。

白焼き

タレをつけずに焼いた、わざび醤油で食べるシンプルな鰻料理。うなぎの品質に自信がある店でこそ提供できる一品で、鰻本来の甘みと旨みを味わえます。

肝吸い

鰻の肝を使ったお吸い物。昆布と鰹の合わせ出汁に肝を入れます。上品で繊細な味わいがあります。

うざく

鰻ときゅうりの酢の物。出汁のきいた酸味が特徴です。きゅうりが千切りの場合は、シャキシャキとした食感を楽しむために早めにいただくことがおすすめです。

実は鰻という食材は、ほとんど捨てる部分がありません。紹介したメニュー以外にも、骨を揚げて骨せんべいにしたり、頭を焼いておつまみとして提供する店などがあります。この「すべてを無駄にしない」精神は、日本料理の根幹にある考え方と言えます。

背開き、蒸し、生醤油のタレ。東京が生んだ「江戸前鰻」

東京の鰻屋では主に、江戸っ子の好みを反映した醤油の風味が強いタレを使います。

鰻料理は日本各地で食べられていますが、東京には独自のスタイル「江戸前鰻」があります。「江戸前」とは本来、東京湾を指します。江戸は河川と海に囲まれた地形で、天然の鰻が豊富に獲れる環境でした。東京湾につながる川で獲れた新鮮な鰻は「江戸前鰻」と呼ばれ、大阪、京都などの関西地方とは異なる、独自の調理法を発展させてきました。

特徴のひとつめは「割き方」です。東京では主に、鰻を背中側から開く「背開き」である一方、関西では腹側から開く「腹開き」が一般的です。「背開き」が選ばれた理由は、江戸がかつて武士の街だったことにあります。武士にとって、腹を切ることは「切腹」を連想させる不吉な行為だったため、職人は背中から開く方法で割くようになりました。

ふたつめの特徴は、「蒸す」工程があることです。東京では、鰻を一度白焼きにした後、蒸し器で蒸し、タレをつけて再び焼きます。この「蒸す」工程が加わることで、鰻の余分な脂が落ち、身が柔らかくなるのです。一方、関西では、割いた鰻をそのまま焼くため、香ばしい味わいに。この調理法の違いは、割き方が影響したのではと考えられていますが、近年では関東と関西の技法が交差し、両方の“いいとこどり“を謳う専門店も現れて、新しい鰻文化が生まれつつあるようです。

「喜代川」で聞く、東京での鰻の楽しみ方

老舗うなぎ店、喜代川の五代目店主渡辺昌宏氏。

東京で鰻料理を体験することは、日本の食文化の歴史に触れる貴重な機会にもなります。1874年創業以来、150年を超える老舗鰻屋、喜代川(きよかわ)の五代目店主 渡辺昌宏氏に聞いた、鰻の楽しみ方を紹介します。

「私たちは創業から、鰻蒲焼き一筋でやってきました。先代が培ってきた伝統を、これからも何十年と続けていきたい」と語る渡辺氏。そんな蒲焼きの伝統をまずはお店の建物から楽しむことができます。実は、この店は、100年以上前に建てられた日本家屋を今も大切に維持しています。「東京では伝統的な木造建物の鰻屋が減ってきています。だからこそ、この建物を残していきたいのです」と渡辺氏が話すように、歴史を感じながら蒲焼きを食べることもこの店ならではの鰻の楽しみ方です。

建物は1923年の関東大震災後に再建されたもので、その後も修繕を重ねながら使い続けています。

鰻を食べる際には、風味を高める山椒をかけます。「山椒をかける前に、まずは一口食べてみることをおすすめします。独特の刺激がある山椒は、少量から始めるのが良いでしょう」。また、渡辺氏は「鰻に小骨が残っていることがあるので、注意しながら食べてください」と丁寧に教えてくれますが、その食感も一興と言えそうです。

器に目を向けることでお店の歴史を感じることもできます。喜代川のうな重や蒲焼きの器は、石川県輪島で何度も漆を塗り直してお店で長く使い続けています。また、「銅壺(どうこ)」で蒲焼きを提供することもあります。銅壺とは、内側にお湯が入っていてうなぎが冷めにくい仕組みになっている塗りの器。時間が経ってもあたたかいままの蒲焼きをご飯にのせて食べることができます。銅壺での提供は老舗ならではともいえ、蒲焼きの食べ方としては貴重な体験になるでしょう。

持続可能性への取り組みについても、渡辺氏はしっかりと考慮しています。「現在、天然の鰻は減少しており、2014年には絶滅危惧種に指定されました。そのため、私たちは100%養殖鰻を使っています」。養殖鰻を使うことで、一年を通じて安定した品質の鰻を、より手軽な価格で提供できます。天然鰻の捕獲削減に貢献し、海洋生態系の保護にもつながるのです。

鰻業界全体で、完全養殖の技術開発が進んでいます。「完全養殖化は、5年から10年くらいで確立するのではないかと個人的には思っています。そうなれば、鰻を持続可能な形で楽しんでいただくことができるのではないでしょうか」と、渡辺氏は期待を込めて語ります。

最後に、東京で鰻を食べる醍醐味について尋ねました。「最大の魅力は、建物としても長い歴史を持つ店で、職人が守り続けてきた味を体験できること。ぜひ東京で楽しんでください」。

鰻の香り、歴史ある建物の雰囲気、お店ごとに代々受け継がれた秘伝のタレ。東京の鰻体験は、日本の食文化の深さを五感で感じられる旅となるでしょう。

喜代川

渡辺  昌宏

わたなべ  まさひろ

150 年を超える歴史を持つ老舗うなぎ店「喜代川」の五代目店主。1874 年の創業時から代々受け継がれてきた伝統と味を受け継ぎ、東京で蒲焼をはじめとしたうなぎ料理を提供する。
住所
東京都中央区日本橋小綱町10-5
https://www.unagi-kiyokawa.com/

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