八丈島の豊かな食文化を体感
世界中の多様な食が集まり、発展させることで、独自の食文化が生まれる街、東京。
江戸の伝統野菜をはじめとした様々な食材の産地でもある、東京。
東京の気候風土が生んだ自然の恵み、
食材の一つひとつに込められた生産者の想いやストーリー、
伝統の技法と革新的なアイデアを凝らし、東京の食文化を紡ぐ料理人たち。
東京ならではの「ガストロノミーツーリズム」が、
きっとあなたの日常に、新しい気づきを与えてくれるでしょう。
ガストロノミーツーリズムとは
その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、
その土地の食文化に触れることを目的とした旅のこと。
知って、学んで、味わう時間が、あなたの旅を彩ります。
八丈島の豊かな食文化を体感
東京の島しょ地域には、
目を見張るような大自然と豊かな食文化の魅力に溢れています。
今回訪ねたのは、八丈島。
羽田空港からわずか55分のフライトでアクセスできるこの島は、
歴史と風土に育まれた、おいしいもので溢れていました。
参加者(写真左)
里井 真由美
フードジャーナリスト/(社)日本飲食団体連合会理事
15の食資格を有し、食・食文化の専門家としてテレビ、雑誌、ラジオ、webなどメディアを中心に活動し、世界・日本国内で年間1000軒以上は食べ歩く。ホテルやデパ地下グルメスイーツ、お取り寄せ品にも精通し幅広い知識を持つ。農林水産省食料・農業・農村政策審議会委員なども務める。
https://www.instagram.com/mayumi.satoi?igsh=bnE5OWE2anY4bmgy
ファシリテーター(写真右)
きじま りゅうた
料理研究家
東京生まれの料理研究家。豊富なアイデアとユーザーの目線に立った家庭料理のレシピはもちろん、軽快なトークも人気。都市農業にも関心が高く、NHKの番組では、東京の都市農業をクローズアップする「きじまりゅうたの都市農業×TOKYO」のコーナーを担当。
https://www.youtube.com/@kijimagohan
https://www.instagram.com/ryutakijima/
行程
①島の人々の食を支える、神湊(かみなと)漁港へ
八丈島に到着した2人が最初に訪れたのは、島の北東部にある神湊(かみなと)漁港です。案内してくれた八丈島漁業協同組合の小崎新一さんによると、八丈島は黒潮が近くを通っているため回遊魚が多く獲れるのが特徴で、この港で一番水揚げが多いのは、通年漁が行われているキンメ(キンメダイ)とのこと。
この日も、港には出荷前のキンメとメダイが並んでいました。「それ以外は時期にもよるけどカツオ、マカジキ、マグロ、トビウオ、ムロアジ、アオゼ(アオダイ)、オナガダイなどが獲れます。オナガダイは日持ちがいいから、地元の人は好んで食べますね」と小崎さん。
漁船が次々と港に戻ってきたため、特別に水揚げを見学させてもらいました。漁師さんが「今日はカツオとキハダ(マグロ)だね。キハダはすぐそこで獲れたよ」と教えてくれ、80㎝以上ありそうな魚を次々と引き揚げて並べていきます。
その光景に「東京の海で獲れるのは小ぶりな魚だけだと思っていましたが、ここは全然違いますね。これだけ立派な魚が獲れるなんて驚きです!」と目を丸くする里井さん。きじまさんも「キハダが漁港のそばで獲れるなんて、さすが八丈島」と感動していた、その時。
「ウミガメがいる!」
漁船のそばをのんびりと泳いでいくウミガメに2人は大騒ぎ。到着早々、東京の島しょ地域における海の豊かさを目の当たりにしました。
とはいえ、島の漁業は課題も抱えています。「カツオは昔のようには獲れなくなりました。キンメも漁が増えた分、魚自体は減っています」と小崎さん。キンメは一定の大きさになるまでに15年ほどかかるため、漁協では産卵期は漁を控える、魚にタグを付けて放流し、回遊地域を調査するなど、持続可能な漁業を心がけているそうです。
神湊漁港に揚がった魚は、島の人が購入する分を除いて豊洲市場に送られていて、その一部は東京都内の公立学校の給食にもなっているそうです。また漁協の女性部は毎年東京都内(本土)の小学校に出張し、八丈島の文化や魚の捌き方を教えています。「もちろん八丈島の小学校でも教えているので、島には魚が捌ける子どももいますよ」と小崎さんは嬉しそうに話してくれました。
②「あそこ寿司」で味わう、漬けと辛子のハーモニー
神湊漁港で揚がった新鮮な魚を味わえるのが、「あそこ寿司」です。一般的に伊豆諸島では、醤油漬けのネタに辛子を入れた寿司を「島寿司」と呼びますが、この店の「島寿司」は、八丈島でよく食べられる魚の握り寿司。この日のネタは、キンメ、バショウイカ(アオリイカ)、アオゼ、キハダマグロ、シマアジ、オナガダイの握りとキツネ(ハガツオ)の海苔巻き。店主の浅沼弘毅さんにキツネの語源を尋ねると、「カツオなのにマグロみたいな味がして、みんな騙されるからキツネ。海苔がパリパリのうちに、一番最初に食べてね」と教えてくれました。
一方、「醤油漬け島寿司」の桶に並ぶのは、カンパチ、メダイ、岩海苔の握り。こちらは、わさびの代わりに辛子が使われています。里井さんは、「辛子の寿司って初めて食べましたが、すごくまろやかな丸い味ですね。酢飯も酢がきつくないし、辛子のツンとした感じも全然ない」と衝撃を受けた様子。きじまさんも「寿司に辛子って合うんですね。漬けも塩味が強過ぎず、ちょうどいい。何分くらい漬けるんですか?醤油にみりんも入れてます?」と興味津々です。
「うちは醤油だけ。今日のカンパチは40分、メダイは30分くらい醤油に漬けたけど、魚の状態で時間は変わります。細かい決まりはなくて、飴色になったら食べ頃というのが先人の知恵なんですよ」と浅沼さん。辛子を使った寿司は八丈島が発祥のようですが、細かい経緯はわからないそうで、「醤油漬けは保存性を高めるための工夫です。時間が経っても辛味が残るのはわさびより辛子だから、辛子を合わせたんじゃないかな。何よりそれがおいしかったから、残っていったんだと思うよ」と浅沼さんは話します。
興味深いのは、島の人たちの薬味の組み合わせ方です。普通の握り寿司はわさび、醤油漬けの寿司は辛子、刺身は島唐辛子、と合わせるそうです。2人も浅沼さんに教わり、長さ2㎝ほどの島唐辛子を醤油の中でつぶしてみることに。「辛いっ!でも香りが爽やか!」「白身のお刺身によく合うー!知らないことだらけですね」と、素材の味を引き立ててくれる島唐辛子の辛みを楽しんでいました。このように、保存効果など先人たちの知恵や島寿司の歴史と伝統を感じながら、近海で獲れた新鮮な魚を満腹になるまで楽しんでいました。
③約150年続く「くさや」は八丈島の誇り
続いて訪れたのは伊豆諸島の伝統食・くさやを製造する「長田商店」です。この店の2代目、長田隆弘さんは、くさやの魅力を伝える活動をしていて、加工場の見学も受け入れています。
くさやは干物の一種ですが、「くさや液」に漬けるのが特徴です。江戸時代、伊豆諸島には塩年貢が課せられているなど、塩は貴重だったため、魚を漬ける際に少量の塩を足しながら同じ塩水を使い続けていたそうです。液内で魚のたんぱく質から発酵が始まり、抗菌効果の高い多様な菌を持つくさや液が誕生したと言われています。
「八丈島では明治初期に新島からくさや液が伝わり、くさや作りが始まりました。くさやの加工業者はそれぞれ独自のくさや液を持っているので、加工業者によってくさやの味や香りはまったく違います。また島ごとに違いがあって、八丈島のくさやの特徴は、近海で獲れた魚を鮮度が高いうちに加工していることと、魚を水にさらして塩抜きする工程があることの2つ。水にさらすため、匂い控えめで食べやすいです」と長田さん。
くさやは魚をくさや液に12時間漬け込んだ後、水にさらして塩抜きし、乾燥室で1日半から2日干して完成します。
くさや液に魚を漬け込む工程を二人も体験してみることに。液の中の菌を活性化させるため、棒でかき混ぜていきます。棒をぐるりと回すと、くさやの匂いがふわーっと漂ってきて、「おっ~、これはなかなか……」と、独特の香りに驚きながら、くさや作りの工程に理解を深めていました。
この独特の香りゆえ、「くせになる」というくさやファンがいる一方で、苦手な人がいるのも事実です。八丈島でも若い世代の消費量は落ちていて、この30年で島内のくさや加工業者は約3分の1に減りました。しかもくさやを専業とするのは、長田商店を含め2件しかありません。
「くさやの材料となるトビウオやムロアジは、現在は期間限定で漁をしています。いつ終わっても不思議ではない、非常に厳しい状況ですが、それでも私がくさやの魅力を伝える活動をしているのは、島の子どもたちの存在があるからなんですよ」と長田さんは話します。
八丈島の子どもたちは授業で長田さんの話を聴いたり、「長田商店」の加工場を見学に来たりして、くさやに興味を持ってくれるそうです。「あるとき、お子さんがうちの加工場に来て、いい匂いだと言ってくれました。それ以来、自虐的に『臭い』と言うのはやめたんです。カレーの香りがしたら、今日のご飯はカレーだなと思うように、くさやの香りがしたら、今日はくさやだなと思ってもらいたい。子どもたちのためにも、くさやの香りは八丈の香りなんだと誇りを持ちたいと思っています」。
見学を終えたきじまさんは、こう話してくれました。「伝統文化は一度消えると復活できないし、ひとつの業種が頑張るだけでは守れないことがあります。僕は仕事柄、地方の方に郷土料理を教わる機会がありますが、『この人がいなくなったら、この料理は消えてしまうのかな』とよく感じます。長田さんにはぜひ、くさやを次世代に繋いでもらいたいです。くさやがなくなったら、悲しむ人が本当に多いと思います」。
④「八丈興発」で麦麹×芋の「東京島酒」の歴史を学ぶ
♪沖で見たときゃ鬼島とみたが、来てみりゃ八丈は情け嶋
八丈島の民謡・ショメ節の歌詞から命名されたのが、焼酎「情け嶋」。製造元の「八丈興発(こうはつ)」へ立ち寄り、今回、工場見学をさせてもらいました。
2人を迎えてくれた3代目の小宮山善友(ぜんゆう)さんによると、八丈島では江戸末期から焼酎が作られているとのこと。薩摩藩の商人・丹宗庄右衛門(たんそうしょうえもん)が八丈島に島流しとなり、焼酎の製法を伝えたとされています。そこから伊豆諸島に焼酎の文化が広がっていきました。現在八丈島には4件の蔵元がありますが、島でお酒と言えばもちろん焼酎のこと。神社のお神酒も焼酎のようです。
「九州の焼酎は米麹を使いますが、伊豆諸島は稲作に向かず米がなかったため、麦の麹が使われています。米麹は米の甘味、麦麹は香ばしさ、爽やかさが感じられるのが大きな違いですね。特に八丈島は雨が多く水が豊かで、良質な軟水に富んでいるので焼酎造りに適した島だと思います」と小宮山さん。現在は、麦麹の麦焼酎、麦麹の芋焼酎、それらのブレンドの3種が作られているそうです。
2人は特別に、発酵タンクを棒で混ぜる作業を体験することに。「中は濁っていますね。ポコポコと泡立ってるのが見えます」と驚く里井さんに、小宮山さんが「実は、発酵中なんです。濁った上澄みの部分に雑菌が溜まっていくので、棒でかき混ぜます。すると下の方にいるクエン酸が雑菌を殺してくれ、下に溜まっている炭酸ガスが全体にいきわたります」と説明します。
その後は焼酎の試飲です。ストレートで試飲するため、グラスを傾けた瞬間に焼酎の甘く、強い香りが鼻を満たします。口に含むと、アルコールの刺激とともにトロっとした液体が喉にしみわたるよう。麦麹×麦焼酎の「麦冠 情け嶋」は、カカオや麦チョコのような香りを楽しめる1本で、きじまさんも大絶賛。一方、里井さんは麦麹×芋焼酎の「情け嶋 芋」を試飲し、「スイートポテトみたいな甘い香りを感じます。麦が使われているせいかウイスキーみたいな味わいもありますね」と、絶妙な味のバランスに驚いていました。
小宮山さんによると、焼酎の中身の75%は八丈島の水で25%は無味無臭のアルコールですが、その中に1%未満の高級脂肪酸が含まれていて、これが飲んだときに鼻にふっと返ってくる香りの元になるとのこと。「皆さんはその香りを嗅いで、その焼酎が好きか嫌いか判断されています。高級脂肪酸は多いと酸化するし、少ないと香りが無くなるので、匙加減が難しい。焼酎というのは、わずか1%未満の狭い世界で、蔵元が個性を競い合っているお酒なんです」。
約170年の歴史がありながら、全国的には知られていないという課題を払拭するため、東京都島しょ地域の酒蔵は様々な活動を行っています。2024年3月に国税庁の地理的表示(GI ※)の指定を受け、伊豆諸島の9酒蔵の焼酎が「東京島酒」と表示できるようになったことも、そのひとつ。「他にも東京都心のバーとコラボしたり、イベントに出展したりしています。僕たちは過去の遺産にはなりたくないので、もっと多くの方、特に若い方たちに東京島酒の魅力を伝えていきたいと思っています」と小宮山さんは熱い想いを語ってくれました。
※伝統的な生産方法や産地の特性が品質などに結び付いている酒や農産物などを国が地域ブランドとして登録し保護する制度
⑤「梁山泊」で島の郷土料理を味わい尽くす
夕食は、八丈島の郷土料理を揃える居酒屋「梁山泊(りょうざんぱく)」へ。カウンターの上には「情け嶋」のほか八丈島の焼酎がずらりと並んでいました。漁港から仕入れた鮮魚に「長田商店」のくさや、高い品質を誇るチーズ工房「エンケルとハレ」のチーズも味わえるとのこと。ここでは、八丈島の豊かな食文化を心ゆくまで堪能することができます。
「お疲れ様でした!かんぱーい!」
二代目の山田一行さんのおすすめ料理として、最初に出てきたのは「ブド」。八丈島の郷土料理で、寒天のように固まる成分を含んだカギイバラノリという海藻を煮て溶かし、そこに魚の切り身やネギを入れ、塩で味付けして流し固めたもの。
「すごく磯の香りがします。煮凝りみたいなプルプルの食感かと思ったら、すごくサクサクしている。」ときじまさん。
二品目は、店で一番人気という「明日葉の天ぷら」です。「ひと口ごとにサクっと音がするほど、軽やかな衣とほのかな苦味はくせになるおいしさですね」と里井さん。明日葉は「八丈草」の別名を持つ八丈島のソウルフードで、お茶やアイス、パスタなど様々な料理と組み合わせてもおいしいそうです。
「こっちもおいしそう!」と、次に里井さんが反応したのは「海風しいたけの串焼き」。八丈島は降水量が多く湿度も高いため、しいたけの栽培には適しているとのこと。海風を浴びて育った肉厚の「海風しいたけ」を醤油だしでさっと焼いた1品に、2人の笑顔が止まりません。
「八丈ジャージー牛乳のモッツァレラチーズとトマト」には、「エンケルとハレ」のチーズが使われていて「ぷるっとしたチーズの食感とミルキーな味の広がりがすごいです」と里井さん。
くさやは、山田さんに食べ方を教わり、頭を落としてから縦に裂き、さらに細かく裂いていきます。「口に入れると匂いは全然しませんね。あー、おいしい!焼酎にも合いますね!」ときじまさんもくさやの魅力に感動していました。
先ほど神湊漁港で揚がったばかりというキンメとカツオの刺身を食べた里井さんの「私が知っているカツオの食感じゃない」と驚く様子を見て、「獲れたてのカツオは別物ですから」と山田さんも嬉しそうです。八丈島では時化で船が出ず、魚を仕入れられない日も多いそうですが、梁山泊では、刺身はできるだけ獲れたての魚を出しているとのこと。「経営的には厳しくなるけど、お客さんにはおいしい魚を食べていただきたいですから。郷土料理の食材の中には入手が難しくなったものもありますが、八丈島の味を伝えるため頑張って調達しています」と山田さんは話します。
⑥島しょ地域唯一にして、凄腕のチーズ職人を訪ねて「エンケルとハレ」へ
翌朝、2人が向かったのが、リードパークリゾート八丈島の敷地内にあるゆーゆー牧場です。こちらでは約40頭のジャージー牛が飼育されていて、自由に見学することができます(※注意事項あり)。日中は森に放牧されるという牛たちは、元気いっぱい。人懐っこい子牛たちの愛らしさに2人は頬が緩みっぱなしです。
このジャージー牛の牛乳からチーズを作っているのが、東京都島しょ地域唯一のチーズ職人で、「エンケルとハレ」というチーズ工房を営む魚谷孝之さん。魚谷さんが作るチーズは国内最大のチーズコンテストの最高金賞をはじめ、数々の賞を受賞し、チーズに使用している牛乳は総理大臣夫妻主催の晩餐会にも使用されたほど高い評価を得ています。ちなみに「エンケル」はスウェーデン語で「普通でちょうどいい」を意味する言葉で、工房名には「日常の中にある特別」を作るという想いが込められているそうです。
今回は特別に、モッツアレラチーズ作りを体験させてもらいました。
用意されたのは、殺菌処理した牛乳に乳酸菌と酵素を加えて乳を固め、液体のホエイを取り除いた「グリーンチーズ」。塩を加え、チーズをほぐしている段階ではボソボソとした感触ですが、お湯を注ぐと、あっという間にお餅のような粘り気のある状態に。
そこから、チーズを2、3回上下に引き伸ばすのですが、あまりに簡単に伸びるので2人は「すごい!こんなにビヨーンと伸びる!」と大興奮。
「この工程は、チーズの繊維を縦方向に揃える効果があるんです。そこからまとめていくことで繊維の層がミルフィーユ状になり、そこにおいしさの成分が詰まっていきます」。魚谷さんの説明に、「確かに断面に繊維が見える。これがモッツァレラのおいしさの秘密なんですね」と、きじまさんは感心していました。
その後、チーズが丸くなるよう絞り出し、ちぎる工程に大苦戦した2人ですが、なんとかモッツァレラチーズが完成。
味見すると、まだほんのりと温かく、シコシコとした歯応えのなかにミルクの味とほど良い塩気が広がります。「おいしい!」「出来立てを食べるのは初めてかも」と2人は満面の笑みに。
実は八丈島は、明治時代から酪農が行われてきた島でもあります。
「明治時代には牛肉の缶詰やバターが製造され、大正時代には1日約75リットルという乳量世界一の乳牛がいました。しかもその年の乳量ベスト3はすべて八丈島の牛だったそうです。八丈の古い言葉には、牛に関する単語がたくさんあって、島と牛がいかに密接に結び付いていたのかよくわかります」と魚谷さんは話します。
昔から良質な乳牛を飼育できた背景には、先人が八丈島固有のススキであるマグサを品種改良して育て、飼料として通年与えたことがあるそうです。現在も、ゆーゆー牧場では牛たちにマグサを与えていますが、牛たちは野生の明日葉やサツマイモの蔓、八丈島の伝統工芸品「黄八丈」の染料となるコブナグサにフルーツレモンなども食べるとのこと。八丈ジャージー牛の乳製品はまさに、八丈島の気候と風土、そして島の人達の知恵と工夫が生み出した、島の恵みの結晶と言えます。今後は耕作破棄地を活用した酪農や牛肉の生産も進め、「いずれは八丈島からブランド牛を出したいです」と魚谷さん。八丈島の酪農の歴史はこれからも続いていきます。
⑦「八丈島ジャージーカフェ」はおいしいスイーツと乳製品の宝庫!
ゆーゆー牧場のジャージー牛の牛乳や乳製品、そして島のフルーツを使ったスイーツやドリンクを味わえるのが、大賀郷地区にある「八丈島ジャージーカフェ」です。
カフェの経営にも携わる歌川真哉さんと魚谷さんの出会いから新たな商品開発などの挑戦が始まり、ここ数年で八丈島の乳製品の魅力と知名度は大きく向上しました。
店内のショーケースには、「エンケルとハレ」のチーズのほか、ジャージー牛乳使用のチーズケーキや明日葉シフォンケーキ、プリンなどもずらり。里井さんは「さっき自分が作ったモッツァレラと、魚谷さんのモッツァレラを食べ比べて、違いを知りたい」とチーズをたくさん購入していました。一番人気はソフトクリームで、ドリンクメニューにはジャージー牛乳やヨーグルトドリンクもあり、まさにジャージー牛尽くし!
コクがあるのにさっぱりとした味わいのジャージーミルク味と、程よい苦味をいかした明日葉味のソフトクリームを食べた2人は「人気になる理由がわかります!」と、またもや笑顔でした。
こうして、1泊2日の八丈島の食の旅を終えた2人に、感想を聞きました。
「島の風土や食文化など本当に発見の多い旅になりました。酪農、漁業、くさや、焼酎、郷土料理とさまざまな現場を訪ね、生産者や加工業者、料理人の方々とお話しできたことで、八丈島の食文化を紐解くことができ、多くの学びが得られました。僕は東京生まれですが、今まで八丈島のことをあまり知らなかったのは、本当にもったいなかったと思います。羽田から1時間という近さも魅力なので、プライベートでも絶対また来ます」ときじまさん。里井さんは「旅全体を通じて、『ここは本当に東京なの?』と感じることが多かったです。島の人たちの食文化や伝統に対する情熱も感じられましたし、漁港と牧場という原点を見て、人の技が詰まった逸品を食べられたことは大きな収穫でした。未知のことを知る喜びもあったし、自分の知識が覆される楽しさもありました。今度は八丈島のスイーツを食べに来たいですね」と話してくれました。
八丈島は海あり山ありの自然の宝庫。絶景の牧草地で牛たちが草を食む牧歌的風景も魅力で、夜は天然のプラネタリウムのような星空が広がり、冬はホエールウォッチングも楽しめます。この雄大な大自然と、島の人たちが長い時間をかけて紡いできたのが八丈島の食文化。あちこち訪ねて食べ歩き、それぞれに秘められたストーリーを紐解いていけば、忘れられない旅になることでしょう。
(本記事は、2024年度東京都で実施した東京におけるガストロノミーツーリズムの魅力発信事業の実施レポートです。)
訪問先
ご協力いただいた施設・お店をご紹介します。
神湊(かみなと)漁港
八丈島の北東部に位置する、岩礁を掘り込んで造られた漁港。地元漁船の拠点漁港であり、周辺海域で操業する漁船の避難漁港の役割も果たしている。
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/09hatijou/kakuka_top/d-top/d-kaminato
あそこ寿司
神湊魚港で仕入れた新鮮な魚を提供する寿司店。島の魚を使った握りずし「島寿司」や、醤油漬けのネタに辛子を使った「醤油漬け島寿司」などが人気。
https://www.shimajiman.metro.tokyo.lg.jp/02_shop/info_003/
長田商店
漁港で仕入れた新鮮な魚を、初代から受け継いできたくさや液に漬け込んだ、くさやを製造、販売している。くさやは店頭でも購入可能。事前予約があれば工場見学が可能。
https://kusayaya.com/
八丈興発
島酒として人気を集める焼酎「情け嶋」の酒蔵。「麦冠 情け嶋」は2024年「酒屋が選ぶ焼酎大賞」の麦焼酎部門大賞を受賞。ほか、銘柄多数。
http://www.hachijo-oni.co.jp
梁山泊(りょうざんぱく)
三根地区にある、八丈島の郷土料理店。島の魚やくさや、明日葉、芋、海風しいたけなど島の食材を使った料理が楽しめる。人気店のため予約は必須。
http://www.rzp.jp/
エンケルとハレ
東京都島しょ地域で唯一のチーズ職人、魚谷孝之氏のチーズ工房。自然豊かな環境で育つ八丈島ジャージー牛のミルクを使った様々なチーズを製造している。
https://enkeltohare.stores.jp/
八丈島ジャージーカフェ
八丈島ジャージー牛乳のミルクやバター、ヨーグルトを使ったスイーツやドリンクが楽しめるカフェ。島の食材を使ったメニューも多く、観光客にも大人気。
https://www.hachijo-milk.co.jp/jerseycafe
「東京のガストロノミーツーリズム」に関する情報はこちら
八丈島の豊かな食文化を体感
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