トンカツ、オムライス、ハンバーグ。洋食の魅力と楽しみ方

2026年1月15日

近年、東京を訪れる外国人旅行者の間で、寿司や天ぷらといった和食だけでなく、トンカツやオムライスをはじめとする洋食への関心が高まっています。豚肉や卵、ケチャップなど馴染みのある食材を使いながらも、箸で食べ、ご飯と味噌汁がセットになるという日本らしさを感じられることで注目を集めている理由です。

洋食は、19世紀後半に西洋から伝わった料理を、日本の食材・調味料・技術でアレンジし、独自の進化を遂げた料理文化です。これは、食文化を持続可能な形で発展させようとする、日本の食への情熱の象徴でもあります。

和食と同じく日本で広く愛されている洋食を通じて、東京を中心に発展した“洋食文化”の奥深さをご紹介します。

「洋食」とは何なのか?トンカツなど代表的なメニューとその歴史

東京で楽しめる洋食の代表格として、トンカツ、オムライス、ハンバーグ、カレーライスがあります。郷土料理研究家の青木ゆり子さんに話を聞きながら、洋食の歴史を紹介します。

トンカツ

トンカツは、フランスのコートレット(子牛のカツレツ)が日本で独自の進化をしたものです。日本では天ぷら鍋を使ったディープフライ方式を採用し、キメの粗い「パン粉」を用いたことで外はカリカリ、中はジューシーという理想的な食感が生まれました。

箸で食べやすいようカットされている点も日本らしい点です。さらにイギリスのウスターソースを改良したトンカツソースも開発され、日本独自のトンカツとして長い間愛されてきました。

オムライス

オムレツをベースにつくられたのが、オムライスです。日本の主食である白米をチキンライスにして、卵に包んでいます。現代ではふわふわオムレツなど独自の進化を続けています。家庭でも作られるメニューでありながら、プロの技術を味わうために専門店にも行く、ふたつの楽しみ方が共存している料理です。

ハンバーグ

ハンバーグの起源は、ドイツのタルタルステーキにあり、1960年代に日本で家庭料理として普及しましたが、やがてレストラン料理へと昇華しました。青木さんは「家庭では再現できない技術があるから、レストランに食べに行く文化が生まれた」と解説します。絶妙なスパイスの調合や焼き加減など、プロの技を求めてレストランでの需要が拡大し、いまではファミレスをはじめ、さまざまなスタイルの専門店が誕生しました。

カレーライス

カレーライスは、インド起源のスパイス料理が英国で独自に発展し、英国経由で日本に根付いたという背景を持っています。日本ではレストラン各店が独自のスパイス調合や隠し味などを加え、「カレー評論家」が存在するほど日本人に愛される国民食となっています。「ひとつの料理に評論家がいるのは海外では稀な現象です」と青木さんは解説します。カレーはそれほど日本の食文化に深く根付き、独自の進化を遂げているのです。

そもそも洋食が誕生した背景には、19世紀後半の肉食の解禁があります。肉食が表向きでは禁止されていた江戸時代が終わり、明治時代には牛鍋(すき焼き)から次第に普及しました。最初は敬遠する人もいましたが、その美味しさが広まると、肉食文化は国内で急速に定着していったのです。

こうして明治時代に輸入されてきた西洋料理ですが、現代の日本で親しまれている洋食へと変化する過程では、いくつかの重要な「日本化」が起こってきました。ひとつは慣れた箸で食べられるように工夫したこと、次にご飯と味噌汁がセットになることで和食の要素が組み込まれたことです。

食材の置き換えも重要でした。日本では手に入りにくい子牛肉を豚肉にするなど身近な食材に置き換えることで、庶民でも楽しめる料理になったのです。これは、地域で持続的に生産・調達できる食材を活用するという、現代にも通じる知恵の表れといえます。

こうして洋食は日本の食卓に和食と並ぶバリエーションとして根付き、家庭でも作られ、かつレストランでも楽しまれるものになりました。この進化こそが、洋食が150年以上にわたって日本で愛され続けている理由です。

外国人旅行者にとって洋食の最大の魅力は、寿司のような「エキゾチック」な料理と西洋料理の「中間」に位置する親しみやすさにあります。青木さんは「毎日エキゾチックな料理だと疲れてしまう。洋食は外国人旅行者にも親しみやすく、それでいて日本らしさがあるところが人気の理由」と説明します。

東京が洋食の発祥地となった理由とは?浅草と銀座が育んだ独自の洋食文化

東京が洋食の発祥地となった背景には、いくつかの重要な要因があります。西洋化政策の最前線であった東京では、外交・接待の場として西洋料理が必要とされ、特権階級向けの西洋料理店がどこよりも早く誕生しました。「新しいものを取り入れるのが好きな江戸っ子の気質」と青木さんが語るように、流行に敏感な気質が洋食を育てました。

そのうち、庶民が「それに似たもの」を求め、価格を抑えた気軽に入れるレストランとして洋食が生まれます。首都として全国から食材が集まる東京では「いろいろな実験がしやすい環境だった」と青木さんは説明します。流行に敏感な人々が集まり、流行り廃りの中で洗練されていくサイクルが、洋食の進化を加速させました。

東京の洋食文化は、浅草と銀座というふたつの街で発展したと考えられています。当時、東京いちの繁華街であり職人の街だった浅草では、箸で食べられる形式の洋食が誕生しました。現在も浅草には、当時からの老舗洋食店が残っており、洋食店が誕生した当時の雰囲気を体験することができます。

一方、銀座は特別な日に家族で訪れる場所です。青木さんは「銀座はよそゆきの町。服装を整えて、ちょっとピリッとした気持ちで行く洋食店が多くあります」と話します。

東京では発祥の店がいまだに営業を続けており、当時の味や雰囲気を体験できます。反対に、多彩に進化し続ける洋食の最先端のお店も存在しており、古きよきものと最先端の両方が共存していることが、東京で味わえる洋食の大きな魅力です。

はじめにトンカツ。ファミレスから専門店まで、東京で洋食を楽しむ実践ガイド

どんな店に行くべきか悩む旅行者の方に、まず試してほしいのがトンカツです。青木さんも「東京を含む東日本は豚肉を食する文化があり、豚肉を使ったトンカツは東京らしい料理といえます」とおすすめします。天ぷら由来の揚げの技術による食感、箸で食べるスタイル、トンカツソース、そしてご飯と味噌汁のセット。トンカツは西洋由来の料理を、日本の伝統的な食卓の文脈の中で楽しむことができるメニューです。

銀座の老舗洋食店、銀座煉瓦亭。この店は創業から130年の間、伝統の味を守り続けています。

気軽に洋食の世界に足を踏み入れるなら、ファミリーレストランで洋食に触れるのもおすすめです。「ファミリーレストランは洋食の入門編として最適です。多様なメニューを手頃な価格で注文できる。もっと知りたくなったらぜひ専門店へ」と青木さんもアドバイスします。

また、もう少しディープな洋食体験をするなら寿司屋のようなカウンタースタイルで食事ができる洋食店がよいでしょう。調理の様子を目の前で見ながら食事をするライブ感も、東京の洋食体験の一部です。

「東京には古典と最先端、両方の洋食があります。ぜひ洋食も楽しんでください。親しみやすく、それでいて日本の歴史を感じられる。そんな洋食を通じて、日本の食への情熱を感じてください」と青木さんは語ります。150年以上続く洋食文化は、今も東京で進化を続け、新しい食体験を提供しているのです。

郷土料理研究家
青木ゆり子 あおきゆりこ
株式会社イーフード 代表取締役。郷土料理研究家。世界の料理総合情報サイトe-food.jp代表。コラムニスト、NHK「ちきゅうラジオ」料理ナビゲーター、内閣官房「東京2020ホストタウン事業」食文化アドバイザーなど。世界70ヵ国250都市以上を取材。著書に「日本の洋食:洋食から紐解く日本の歴史と文化」など多数。

飲食店の
予約サイト一覧

詳しく見る

もっと詳しく知りたい方は、下記のキーワードを検索サイトで調べてください。

東京 喫茶店